たまごビル 健康で生きる力をつける講座                    平成29年9月9日

                心のメッセージとしての腰痛
               組織の危機管理へのリーダーシップ
                       

                 講師  前福島県立医科大学 
                      学長兼理事長
                           菊地 臣一 先生

 【司会 泉大津市立病院 副院長 四方 伸明 先生】

 年末のもちつきで、毎年福島県立医科大学にお餅を送らせていただいております。
放射能汚染対策に粘っこく末永くがんばっていただきたいとの願いからです。

 菊地 臣一先生 は日本の整形外科学会のトップで、世界腰痛学会の理事をされています。
腰の痛みに関しては、日本と言わず、世界の権威です。また福島県立医科大学の学長と理事長を9年間務められました。福島で起こった重大な危機に対し、現地でリーダーシップを発揮されました。

 たまごビルについてお話をします。
東京大学名誉教授の渥美先生(日本統合医療学会名誉理事長、人工心臓の権威)が、脚の浮腫、心不全の兆候、胸水がたまるなど、からだの状態が悪かったのですが、ROB医療で良くなりました。

 そこで、渥美先生が代表設立発起人となり、一般財団法人石垣ROB医療研究所が設立されました。
みなさん「からだ」の不調が回復するに従って、固かった「上腹部の柔軟度」が柔らかくなり「呼吸・循環・人体力学・自律神経・内臓全般の動き」がととのい健康な「からだ」になってきます。

石垣先生は、これからのあるべき医療だけでなく、あるべき人類の生き方をも提案されています。

      
 
一般財団法人 石垣ROB医療研究所 理事長
          たまごビル院長 石垣 邦彦 先生】

 
 菊地先生は日本の整形外科医のトップで、福島の放射能汚染について第一線で
活躍されています。
日本国民の一人として菊地先生にお礼を言いたい。ありがとうございました。
      
【菊地 臣一 先生】

(1) 心のメッセージとしての腰痛

  我々の研修医の時は、腰痛は腰の問題で、治療は、牽引、温める、手術ぐらいしか
  ありませんでした。
        
             

  現在、世界の第一線では、クスリが第一選択ではなく、治療に革命が起こっています。


医学の考え方の転換
 
  20年ほど前からはじまり、ここ5年ほどで医学の考え方が劇的に変わりました。
  以前は、病気は細胞、組織、臓器で機能異常を起こしているとされていました。
  結果には必ず原因があるという前提でした。

         
              

  ところが、例えば腰痛の場合、ほとんどの症例で、どこにも異常がないのに痛みがあります。
  以前の医学知識では説明することができないことです。
  腰痛の原因は、昔は椎間板が悪いとされていました。しかし、原因は、部分的な物から人間全体へと劇的に
  変わっています。

診断・治療へのEBM (evidence-based medicine)の導入 -根拠のある医療-

   平均値をとることで、社会に生きる人間をとらえようとしました。
   ビッグデータなど大規模な調査集計。

            

NBM医療現場における医療従事者と患者との信頼関係に基づく医療

 皮肉にもEBMが明らかにしたのは、NBMの重要性であった。
      “先生に診てもらったら治ったようだ”
      “病院に来たら治ってしまった”
   気のせいでなく、本当だった!
 医療現場と患者との会話による信頼関係に基づく医療。
   日本で古くからおこなわれていた“手当”など。

 
現代の医療の有り様  (Lancet 344 : Placebo in medicine1994)
 
  医療は科学では割り切れない要素を含んでいる。
  “治る先生”と“治らない先生”がいる。信頼関係があると同じクスリでも効き目が違う。
  医療におけるもっとも強力な心理的効用は“医師の人格”である。
  プラシーボ(偽薬)は最も有効な治療薬の一つ。
  心理的効用:手術という“ドラマ”、昔から愛用されている丸薬、医師や看護師による手を重ねての励まし、
     医師の自信に満ちた態度により効果が高くなる。


現代医療に対する批判   The Lost of Healing Lown B 1996
    「治せる医師・治せない医師」1998 「医師はなぜ治せないのか」より

  現代医療が変わってしまった。
     癒し         治療
     聞く(問診)  →   検査
     思いやり   →   管理
    時間をかけて診察すると利益にならない事情


腰痛はどうして発生するのか?
 
   個人の性格や心理状態、 職場の人間関係や待遇、家庭内の問題などが複雑に関与している。
   文化(国)によって腰痛の治り方も違う ・社会保障制度などが関係。
           
 
腰痛の新たな考え方
 
  腰という局所の問題         → 人間の健康の問題として捉える
   「脊椎の障害」          → 「生物・心理・社会的疼痛症候群」である
   「レントゲンMRIなどでの異常」 →  「目に見えない原因」もある
   「予後良好(治った)」      → 生涯に渡り再発を繰り返すものである
  ギックリ腰は腰痛と別物
  腰痛には心理的・社会的要因が深く関与している


痛みと心の問題

  痛み、不安、うつは相互に影響している。
     癌末期の在宅ケアの患者は痛みを訴えないが、一方、入院患者は激しい痛みを訴える。
     椎間板ヘルニアによる痛みで手術を受ける患者さんとヘルニアがあっても全く痛みが無い人との差に
        仕事上の問題や不安、うつ、結婚生活などが深く関与している。

  慢性腰痛の最も重要な危険因子の一つが心理上の問題である
     腰部脊柱管狭窄の手術成績にうつが影響している
     痛みを訴える患者さんの80%が抑うつ状態を伴っている。
     精神的挫折が慢性腰痛の切っかけになっている可能性がある。

  社会的問題:経済危機、職場環境、リストラ、社会保障制度が疼痛と深く関係している。
  ストレスは病気や医療に大きな影響
     椎間板ヘルニアを有する患者さんには、ストレスがかかっている。
     重度なストレスは疼痛を引き起こす可能性がある。

  睡眠への影響
     腰痛の患者さんの約60%に睡眠障害がある。
     睡眠不足の人は痛みを感じやすい。

そもそも椎間板の老化は本当に悪なのか?
 
  年を取ると椎間が狭くなり固くなり、背中が曲がってきます。
  背中が丸くなると筋肉に負担がかかり、腰痛が出ます。

  しかし、脊柱管が広くなるため、神経を圧迫しにくくなります。(神経症状の予防)
  背骨が固くなると、支持性が良くなり、転んでも脊損や神経を傷つけることが少なくなります。
   悪い面ばかりではありません。


【腰痛治療 】

   他人任せでなく自分で身体を動かして治す
   「受け身」の治療から「攻め」の治療へ

“治療としての安静”という時代の終わり

   治療としての「安静」は成立しない (結果としての安静は別) 
   「安静」は死亡を含め重大な健康リスクの可能性が大きい。

治療の基本
 
   治療の目標は痛みを無くすことではなく、仕事や日常生活に支障のない状態にすることである。
   自分で決心し、自分で行うという点で運動が第一選択である。
   心を整えるという点で、認知行動療法やマインドフルネスが注目を浴びている。

運動は何故身体に良いのか?
 
   免疫機能が向上する。
   生活習慣病や自己免疫疾患に深く関与している
   慢性炎症を抑制することができる。
   身体を動かすことにより多くの健康障害のリスクを低減できる。

どんな運動が良いか?

   運動の内容や種類で効果に差は無い。
   ウォーキングはヒポクラテス、貝原益軒も推奨している。

 
マインドフルネス  (心が満たされること)

    

      禅の瞑想から宗教の要素をとったもの。ストレスの解消や心を整える。

    

 
(2)組織の危機管理へのリーダーシップ


     福島で起こったこと 東日本大震災と原発事故

  


  


  

       


 
            

            
 
  

         

         

強力なリーダーシップが必要

  人は人生が配ってくれたカードでやっていくもので、カードが悪いと愚痴をこぼすものではない。
  組織のリーダーは、覚悟と忍耐が必要
     他人の非難を受けずに済む仕事を見付けるのは、容易ではない。

  「拙速」の重視
     走りながら考える。
     現場に任せて、トップはそれを支える。
     担保はトップの「責任」と人々の「共感」  ※修羅の場では「迅速」は所詮無理

  与えられた条件で斗うことの覚悟を持つ
  優先順位の決定
  一旦任せたら辛抱強く待つ
  トップは、貴方の働き(存在)に感謝している(知っている)というメッセージを明確に 当事者達に伝えること

       


 
【質問】

東大阪市立医療センター院長 辻井正彦 氏

  問:これからの治療について(脊柱管狭窄症で痛むときと痛まない時がある)
  答:痛い時と、痛くない時の差は分かりません。炎症と免疫に関係していると思われます。
    手術をたくさんしましたが、手術で治らない患者さんがいることが分かり、その原因
    を調べると、心理的なものにあることが分かりました。そのため、今では手術前に
    心理テストをしています。心理テストで異常が出た場合、手術はしません。
    その後、手術しても治らない患者さんは減っています。

八尾警察署総務課長 西川明男 氏
  問:組織の長としてストレスと部下のストレスについて
  答:私もストレスで、1か月で10キロほど痩せました。気にかけていたのは、指示を出した
    相手に必ず次の日に声をかけることです。組織と言っても最後は人と人の信頼関係です。

八尾市危機管理監 佐野正樹 氏
  問:災害時の情報共有のためのディスカッションについて
  答:会議は毎朝6:30から30分、全員で行いました。
  問:マニアルや連絡について
  答:マニアルは役に立ちませんでした。マニアルはちゃんと読まれるとして作られていますが、
      実際には読めないことが多い。原発では、電源喪失で、暗闇でした。
    中央からの連絡も、当時FAXのメモリーが50枚用だったので、多くのFAXが入り、上書きされて
       読めなかったのです。(現在はメモリーを増やしました)  
  問:先生自身の睡眠・健康をどうして守られたか
  答:周りの関係者の協力で、日常生活を変えないで過ごせました。リズムを変えないことが大切です。

八尾市消防本部次長 森本勝久 氏
  問:八尾からも岩手県に出動しました。原発の事故などの注意点。
  答:日本の危機管理の予備能力はゼロです。自衛隊では20万人のうち10万人が平常勤務で、
    残りの10万人が全部救援に出ました。予備能力がゼロでした。何かあったら対応できない
    状況でした。自衛隊・警察・消防・病院など予備能力がありません。予備能力を持たないと
    リスク管理はできません。国民がしっかり考えることです。
    原発事故が発生した日に、東京で講演会に参加していました。その時、アメリカ人の
    参加者にはアメリカ大使館から人が来て、退避するよう指示があり、航空機の手配まで
    していました。当時、日本では重大事故の認識がありませんでしたが、アメリカでは
    国外退避の指示が出ていたのです。日本の危機に対する情報把握能力がなかったと
    思われます。
    日本には危機意識が無かったと思います。日本も、日本を守るための情報収集能力を上げ
    ないといけないと思います。