たまごビル健康講座                       平成28年4月9日


     人はどのようにして 人の形を保てるのか
      -常に入れ換える細胞たち

       泉大津市立病院
       副院長      四方 伸明 先生

 
【人は人の形をなぜ保てるのか】

人は受精卵が分裂して60兆個にまで増えていきます。このとき、受精卵
は分割して増えていきますが、それらの細胞は同じ形ではありません。
もし同じ形で増えていくなら、同じ60兆個の細胞が転がっているだけで、
人間にはなりません。

人間になるには、増えていった細胞が、それぞれが違った形の機能や
形体を持ったものに変化していかなければなりません。あるものは皮膚に
、あるものは腸管に、またあるものは髪の毛にというように、我々の
身体の形体を作っていくのです。このように変化していくことを分化と言
います。単細胞から分裂して、多細胞になっていき、DNAに組み込まれて
いる決められたプログラムをたどって人間になって行きます。 
 

出来上がったヒトの正常な細胞は、細胞の中の核が小さく、分裂は必要な補充分だけになります。
ところが出来上がったヒトの細胞から、なぜかある時に、脱分化(癌化)が起こります。
最初の受精卵は、ヒトになるために、盛んに分裂し数を増やします。
ヒトとして出来上がった細胞は、補給するのに必要な以上に数を増やしませんが、異常になり、
癌化し
たものは、盛んに分裂し、非常に数を増やします。 


受精卵の状態では、増殖するために細胞の核が大きくなっていますが、完成したヒトの状態では、
細胞の核が小さくなっています。しかし、異常となった癌細胞は受精卵と同じように核が大きくなって、
分裂し増殖していきます。癌化した細胞は、受精卵と同じような性質で、形も似ています。
         
 病理医は、形を見て病気を判断します。重要な仕事は、癌かどうか判断することです。細胞の形を見て、
核が大きく、増殖するものなら癌と判断しています。癌かどうかを正しく判断することで、臨床の先生が
適切な治療ができるようにするのが病理医の役割です。

ヒトはどのようにしてヒトの形を保つのか

         
 受精卵は分割して数を増やしていきますが、それぞれの役割ごとに幹細胞を作り、幹細胞から最終的な
形になります。したがって、消耗したり、怪我などで失った細胞は、受精卵の状態から作られるのではなく、
幹細胞から作られます。
            
 1つの幹細胞は2つに分裂して増えていき、1つは最終的な分化した細胞になります。しかし元の幹細胞を
残すために、1つは自己複製として、元の形になり幹細胞を残します。
分化した細胞は古くなると失われます。皮膚や血液、臓器なども失われますから、幹細胞から作られ補充
されます。

       
 
表皮は2週間で垢として剥離して失われます。表皮が失われないように、基底膜から表皮細胞が分化し
移動して補っていきます。そして表皮は失われることなく新しい細胞に入れ替わっていくのです。

小腸の内層では、上皮細胞が3~5日で入れ替わります。
骨は先端の古い部分は破骨細胞が破壊し、下から新しい骨芽細胞が類骨を分泌し新生骨の基質を作り
ます。骨のような固いものでも1年間で5~10%が入れ替わっています。
この破骨細胞は女性ホルモンで制限されます。女性が高齢で閉経になり女性ホルモンが減ると、破骨細胞
の働きが大きくなり骨を破壊して骨粗しょう症になります。

 
【福島の問題】

放射線を浴びた場合、また、残存している放射線の人への影響を考えます。


        
 細胞が放射線で傷つけられた場合でも、細胞は一代限りですが、生殖幹細胞が影響を受け、情報が変化
すると、次世代に影響が出ることが考えられます。
これは、過去の事例で考える必要があります。
過去の事故では、チェルノブイリの事故があります。

     
 チェルノブイリでは原子炉が爆発し、放射能が大量に放出されました。しかし当時ロシアは秘密主義のため
公表されなかったので放射線被害が拡大しました。



   
 チェルノブイリでは広範囲に汚染が広がっています。福島は、チェルノブイリのわずか6%の汚染面積です。
もしチェルノブイリと同じ規模の事故が起こっていたら、東北地方と関東地方は汚染して人は住めなくなって
いました。
チェルノブイリの被害にあてはめて福島の状況を言う風評被害が発生しています。
現実には、チェルノブイリと、福島は規模が全く違っていて、同様の被害を言うのは間違いです。
   

原発に反対するために放射線被ばくの影響を問題視してはいけません。
政治的な価値判断ではなく、あくまでも科学的な検討・検証に基づいて論じるべきです。
過去に蓄積された科学的な知見や福島でのデータにより、被害者救済を行うべきなのです。

       
放射線の量が増え、中高域以上被爆した場合では、髪の毛が抜けたり、鼻血が出たり、下痢をおこしたり
します。東海村の事故や、広島・長崎の原爆では、中高域の放射線を浴びた事になります。
しかし、福島では低線量域なので、中高域で起こるような事はありません。
福島では1件も中高域の被爆は起こっていません。

漫画“美味しんぼ”で除染にたずさわったら鼻血が出て下痢をしたと描いて、風評被害を起こしていますが、
福島での放射線の量では起こり得ないことです。
また、福島の食物を食べても良いのか、福島の人と結婚しても将来子供に問題が無いかなどの、疑問が
言われています。
過去の事例や、動物実験などから、全く問題が無いことが分かっています。これも風評被害です。
 
      
     
 
現在福島に住んでいる人でも、間違った「遺伝への懸念」を持っています。
しかし、過去の事例を見れば明らかです。正しい科学的な根拠に基づくことが必要です。


    
 1986年4月に起こったチェルノブイリの事故から30年後の検証です。福島よりはるかに大きい事故でも
遺伝的影響が無かった事が分かっています。

また「夢千代日記」という吉永小百合が演じ感動を生んだ物語がありました。
主人公の夢千代は母親の胎内にいたとき広島で被爆した「胎内被爆者」という設定です。そして成人して
から原爆症を発病し余命2年と宣告されます。原爆の被害で貧血や白血病、遺伝などから結婚もできない
悲劇のヒロインを演じます。

物語は、素晴らしいものですが、
(胎内被爆者については、高放射線量を浴びた16週から25週の胎児については知的障害児の誕生頻度が
上昇する。それ以外の胎児については有意な変化は見られないとされている。

被爆二世については遺伝的影響はないとの意見が定説となっている。原爆傷害調査委員会(ABCC)による。
被爆2世に対する調査では、新生児の障害、染色体異常、血中タンパク質の異常などの発生率に差は
ないと結論された。放射線影響研究所は2007年に、被爆二世への遺伝的な影響は、死産や奇形、
染色体異常の頻度、生活習慣病を含め認められないと発表している。厚生労働省健康局総務課はこれら
の研究から国会答弁において被爆二世の健康への影響はないと考えられるとしている。 

                                        長崎国際大学論叢  wikipedia より )

したがって、現実には夢千代のような悲劇は起こらないと言えます。明らかな間違いです。
これらの無知や政治的な宣伝が風評被害を増大させています。実際に一番被害を受けているのは被爆者
です。起こりもしない遺伝的な影響などで、被爆者の夢や希望をつぶしています。

今回福島でも漫画「美味しんぼ」が間違った情報を流し風評被害を広めているのは困った問題です。
不必要に根拠のないことをばらまいてはいけません。科学的に根拠のあることを知ってほしいのです。
放射線による遺伝的影響はありません。また、福島の食品は安心して食べることが出来ます。
風評被害で困っているのは、福島の被害者です。


  

【石垣 院長】



たまごビルでは5年前から福島県立医科大学に福島県産のコメでお餅をついて送って支援しています。
抗がん剤の副作用やCTなどの放射能被ばくとの関係についてはどうですか。

四方先生  通常細胞は安定し、補充に必要なだけ分裂します。癌は増殖するため激しく分裂を繰り
返します。分裂した細胞は不安定になり弱くなります。抗がん剤は不安定で弱くなった細胞を癌細胞として
攻撃します。このため、通常細胞のうち比較的分裂する細胞(毛髪、小腸、血液)も影響を受けます。
抗がん剤の副作用です。

CTは約7ミリシーベルトの被爆があります。福島では、除染を進める汚染状況重点調査地域は
年間1ミリシーベルト以上としていますから、CTを1回受けることは大きな被爆と考えられます。
CTは必要な時だけ受けるようにしましょう。


たまごビルでは、体を整えることで、CT検査を受けなくてもよい体を作っています。
それも放射線被害の予防となります。