たまごビル健康講座                       平成27年10月10日

   患者の語りがより良い医療をつくる
     - 認知症患者とその介護者の語りから学ぶこと -
    DIPEx JAPAN 理事長
   横浜ソーワクリニック院長

            別府 宏圀 先生

 
【司会 四方伸明 先生】  関西医科大学 病理学部教授

別府先生は、薬害をいかに防ぐかということや、知らないうちに薬害を受けてしまっていることを調べて、「正しい治療と薬の情報」編集長として、みなさんに正しい情報を知らせる仕事をしてこられました。
今回の講演は、患者の語りについてです。
病気にかかった時、その症状や苦しみで不安になります。その病気とはどの様なものか、案外知らないものです。
同じ病の患者の状態を知ることで、病気が理解でき、安心できるのです。 


 
 【別府 宏圀 先生】

そろそろ“くすり”と、サヨナラしようとしています。そもそも、くすりに取りつかれたのは医師になりたてのころ、スモン病という大型の薬害があったからです。
(注:スモンは、整腸剤キノホルムにより激しい腹痛が起こり、2~3週間後に
下肢の痺れ、脱力、歩行困難などの症状が現れる病気です。ずいぶん長い間、
原因が分からず、風土病や、ウイルスが原因説まで出ました。
しかし、キノホルムが原因の薬害と分かりました。)
日本で10000人から20000人が発病したともいわれる奇病でした。それは自分たちが出した薬のせいだとは、全然思いませんでした。
10年以上かかって、原因がキノホルムという“くすり”と分かり、自分たちが出した“くすり”が原因であったと知りました。それから、きちんとした情報を得て、まじめにくすりの事を考えようと思いました。
「正しい治療と薬の情報」編集長として薬害を防ぐための活動を行ってきました。


 

 「ファルマゲドン」

最近、「ファルマゲドン」という本が出版されました。世界が終るアルマゲドンと、薬などのファーマシーを組み合わせた造語です。イギリスの精神科のデイヴィッド・ヒーリーが書いた本で、薬学やくすりについての歴史から書かれています。
(注:デイヴィッド・ヒーリーは、「抗うつ薬の功罪」という著書で、抗うつ薬で自殺者が多発することを暴いた)
過去にどんな不正操作で“くすり”が認可されてきたかや、利益だけを追求する製薬産業の実態を書いています。そして、今や、製薬産業が医師、薬剤師、看護師の教育に深くかかわっており、研究は製薬産業の資金で行われ、その結果、製薬産業の資金が無いとやっていけなくなり、製薬産業に支配されている現状を示しています。

日本でも、研究や教育は、製薬産業の資金に支配されています。こんな状態になってしまっているので、そろそろ“くすり”をやめようと思っています。
この状態に対抗できるのは、患者であるエンドユーザーの発言であると思います。患者の発言を強くしなければならない。くすりが効くか効かないか、どのような副作用が有るかは、患者が一番知っています。患者の発言で製薬産業を外側から攻められるのではないかと思います。



 患者の発言を聞くことを始めました

15年ほど前から、イギリスのオックスフォードを中心に始まった、患者の話を徹底的に聞いてネットに公開していく作業をしています。もともとは、ある医師が、自分が病気になった時、まったくその病気の事が分かっていなかった事を知り、愕然とします。そこで、自分の患者としての病気の体験を記録し、そして他の病気の患者の発言を聞き始めました。
 

              健康と病いの語り ディペックス・ジャパン  http://www.dipex-j.org/

たとえば、胃がんや乳がんなど、一つの病気に対し50人ほどの人から話を聞いて、整理・分類します。
くすりのことを一番わかっているのは、製薬会社でも医師でもなく、実際にくすりを服用している患者さんなのです。
実際に効いたのか効かなかったのか、どんな副作用があるかなど自分のからだで体験するのでわかっているのです。
この、患者の発言をきちんととらないで、少ない治験や臨床だけで、なにがくすりの開発だと言いたいのです。

患者は病に向き合い、悩み、成長していくことで、一つの仕事を成し遂げたようになります。患者はその病の専門家になっているのです。医師は分かっているように思っていますが、病のほんの少しの状態しか分かりえないのです。本当に病のことを分かっているのは患者さんなのです。そこを、きちんと聞き出すことが大切です。

 認知症の治療

現在認知症の治療をしていますが、認知症は大変な状況にあります。
 

我が国の治療では、認知症の場合アルツハイマーなどと名前をつけると、くすりを処方しますが、効いたり、効かなかったり、また、大変な副作用が出て問題をおこす場合が多く有ります。
現在は役に立つ治療法は確立出来ていません。


 「ニルスの国の認知症ケア―医療から暮らしに転換したスウェーデン」



母が認知症になった人の著書。認知症では先進国であるスウェーデンまで出かけて、スウェーデンでは認知症をどのように扱っているかを書いています。
 認知症の治療では、85%が介護なのです。介護ができる体制を作らなければならないのです。
大きな病院を作って収容しても、環境が変わると患者が混乱するだけなのです。日本では患者と支えるものが共倒れしていく現状が有ります。

認知症は普通の病気です。たいていの人は、住み慣れた所で十分生活していける病気です。
無理して、いろんな所へ入れてしまうので、悪くなってしまうのです。
スウエーデンでは、以前から準備を始めています。政治、経済、医療体制も変えてきています。認知症の人たちと、一緒に暮らしていける環境を作っています。
日本もこのままでは大変なことになります。変えなければなりません。
認知症はだれもが最後にはなりゆく病気です。ぜひ社会を変えていかなければならないのです。


「私の脳で起こったこと」

世界にも珍しい、認知症の方が書いた本です。認知症になったらどうなるか、本人が書いています。
認知症にはいろいろな種類があり、正しく対応することが必要なのです。
著者は30代後半から幻視を見るようになります。41歳でうつ病と誤診され、うつ病治療の薬物で重い副作用が生じ、ひどい認知症になりました。しかし、その後、約6年間も誤った治療を続き、ひどい認知症になりました。やっと「レビー小体型認知症」と診断され、くすりを変えて症状が良くなりました。著者は冷静に認知症になった自分のことを書いています。
「レビー小体型認知症」の特徴である幻視とは、どのような状態でしょうか。それは、たとえば1匹の虫が見える。目を凝らしてじっと見ても、そこにいるように見えるのです。しかし、何かのことで、急に消えてしまって、幻視と分かるのです。また、明らかに違和感が有り、本人も幻視ではないかと思っても、実際にはっきり見えているのです。
どうすれば、幻視が消えるのか、触ってみると消えたり、いろいろなことが分かってきます。
病気のことを正しく理解し、素直に話し合うことができれば、生活できるようになるのです。しかし、知性も人格も失ってしまうと考え、認知症を受け入れない社会の環境の中では、生活ができなくなります。
実際に認知症になったらどうなるかは、本人にしか分かりません。理解を深めていくことが必要です。

 
ディペックス・ジャパンの 健康と病いの語り で、認知症の動画が紹介されました。



             健康と病いの語り ディペックス・ジャパン  http://www.dipex-j.org/


ディペックス・ジャパンの 健康と病いの語り で、認知症の動画が紹介されました。

家族を介護する人の話
認知症の本人の話
アルツハイマー以外の認知症の話
認知症の症状と、どう付き合うか
等を見ることができます。

介護する人も、病気になった人も共に苦しむのです。しかし、ちょっと一声かける、押し付けがましなく、相手のことを考えてメッセージを出しあうことが大切です。しかし、当事者でなければ分からないことです。医師は患者のことを、全て診て知っているように思いますが、実は見えていないところもたくさんあるのです。
この様なことを、みんなが気付くことが、認知症の介護を良くする第一歩だと思います。
これらの動画は、インターネットのディペックスで、誰でも見ることが出来ます。
みんなが関心を持ってくれたら、大変うれしいです。

アルツハイマー病は、アメリカで500万人、日本でも300万人います。将来的には700万人が罹る病気です。
認知症には、介護ができる環境が必要です。社会的なシステム作りが必要なのです。
たとえ認知症になっても、元の環境の中では、生活していけるのです。
認知症に対する理解と、支える環境作りが、必要なのです。


 質問がありました

(問)
     認知症の家族を施設で診てもらっていますが、家族との付き合いが制限されます。

(答)
     施設によっては、患者が楽しみ、回復する手助けをしている施設と、患者の保護のため、ルーチンワークで
     介護を行っている施設も有ります。
     今の医療や介護が、ルーチンワークになっていることが問題です。施設と対話することで、私たちが変えてい
     くことが大切です。


 
【たまごビル 石垣 邦彦 院長】


体験談を聞かせていただくことの大事なことを、再認識をさせてもらいました。
社会全体が細分化され、全体像が見えなくなってきています。
体験談を聞くことで、病んでいるかたの全体が見えてきます。
一つの病気についても、多くの患者さんの生の声を聴くことによって、その一つの病気のあらましが分かり、また同じ病気であっても人それぞれに訴えや困り具合の出方が違うことに気をつけねばなりません。