たまごビル健康講座                       平成26年9月13日

  東日本大震災チャリティたまご会

   看護から診た「食と腸」

      日本看護大学名誉教授  ナイチンゲール記章受賞
                
       川嶋 みどり 先生



 【たまごビル院長 石垣 邦彦 先生】


被災地での看護や食事、また長年の看護生活を通じて感じ取られた事をお話していただきます。今後、私たちが生きていくうえで非常に貴重な体験をお話していただきます。
 【川嶋みどり 先生】

東日本大震災の私たちの活動に、たまごビルからたくさんのご支援を頂いて、心から感謝いたします。

看護では、今まで腸そのものにはあまり関心を持って来なかったのですが、ここで、腸に至る食べ物のはなしや、食事そのものが乱れているのに気がつきまして、食事の話を中心にして、看護の話や被災地での体験をお話します。

昔は、看護師は独身であるべきと考えられていました。
それは、結婚しても、1週間ぶっ続けの不規則な勤務体制、夜勤が月に2回もあり、家庭との両立など、非常識極まる時代でした。

何故女性だけが、こんなに大変なの?と思いながらも、歯を食いしばって、2人の子育てをしながらの変則勤務を続けました。 1つだけ妥協せずに努力したことは、どんなに忙しくても食事だけは、美味しく作って可能な限り一緒に食卓を囲むことでした。
看護師と主婦の仕事の類似性と共通性を理解してから、何故女性だけがという被害者意識はなくなりました。


ふるくから一般庶民の家族の健康管理や病人の世話は、女性(母、妻、娘たち)が行って来ました。
ヨーロッパでは、花嫁に贈られる料理本には病人の応急手当 やケアに関する1章が書かれていて、今も通用する予防・養生法など細やかな心遣いと工夫がありました。
たとえば、「パン粥とランプが一緒になっていて、病人が出ても夜中に温かいパン粥を食べさせられる」、「風邪をひきかけたら、はちみつとリンゴをおろしたものに、しょうがのしぼり汁を入れて飲ませる、そしてレンガを温めた物を毛布でくるんで、足元に置き、からだを発汗させれば、翌朝には治っている」、というような事が書かれています。

日本では「父母もし病あらば昼夜帯を解かず、他事を捨てて看病し…」(1722年徳川時代)と書かれています。女性が寝ないで看病するのが当たり前と考えられていた時代でした。医療制度も健康保険制度も未確立な時代は、家族それぞれが自立していなければ生きていくのさえ難しかったのです。

なぜ、女性が看護をするようになったのでしょうか。原始時代、共同生活で女性たちは草木の芽や実を採取し、仲間たちの生存に必要な食材を入手、また、狩りで猛獣に噛まれた男たちの傷を洗い、病人が出れば川原の石で腹部を温めました。草木を実際に口にして、毒をさけ、薬草を見つけ、民間療法をになっていったと想像されます。

時代が変わって共同生活から、家族が社会の1単位になると、家庭の中にケアがあり、女たちは、暮らしの中で智恵と経験により家族の健康を守ったのです。なかでも、日々の食事は大きなウエイトを占めました。
フランスのMarie.F.Colliere は、「習慣的・日常的ケアが生命の維持と継続につながる」と言っています。

母の腕に抱かれた赤ん坊は、あたたかい胸に頬をつけ、乳首に吸い付き、生命維持と成長に欠かせない栄養を取ります。五本の指を乳房に触れながら至福のひとときです。これは、飢えから身を守る本能行動というよりは、楽しく美味しく食べるという人間本来の食事のありようではないでしょうか。
また、同時に生命を育む母にとっても至福のひとときです。乳汁で張った乳房のコリが哺乳を通して和らぐ 至福のひと時です。 子から母へのケアです。ケアは一方通行ではなく、相互作用なのです。

そして現代では、地球温暖化のもとでいのち自体が受け入れがたい食べ物を見抜く力が求められています。 
   遺伝子組み換え食品 
   食品添加物 
   放射能汚染
   TPPにより脅かされる食糧の自給問題
   原発推進の是非

かしこい人間(女性)として考えること、行うことは何かが問われています。いのち、健康、そして将来の子孫のために


これらの日本の家庭で行われていた健康法、予防法が忘れられようとしています。大変残念なことです。

食事は、食べる能力だけではなく人間の成長に深くかかわっています。
  人の関わり (一緒に食べる人)
  食のスキル(食べ方の模倣を通して)
  食の文化 (マナー 食べ物への関心) 
  居住地、他地域、諸外国の食物、風習などにより、人間を成長させます。

 赤ちゃん時代から毎日ミルクや食物をもらい、体をきれいにしてもらい、抱いて頬ずりしてもらった記憶は消えません。愛情あるスキンシップは、人間を信頼して生きる心をつくります。食事も栄養補給だけではありません。子供たちに安心できる世界を提供し、信頼の芽を育てる大切な機会でもあるのです。
しかし、これらの事が、だんだん軽んじられていると感じています。

私は医療現場での玄米食導入を願ってきましたが、かなえられませんでした。しかし、すでに行っている保育施設が有りました。

玄米給食の保育園児
   風邪をひかなくなった。
   アトピーやアレルギーがなくなった。
   100回噛んで「ご飯は甘いね」。
   季節の食べ物に感謝し,皮も根も大切に頂く。
   体を存分に動かします。 

その結果、情緒が安定して落ち着いてお話を聞くことができるようになっています。

きっかけは、現代の食事の乱れから、昭和30年代の食卓や暮らし方を取り戻す必要があったからです。病院看護と共通の問題意識です。

戦時の欠乏時代の食事を紹介します。
   配給制の米を広げて砂や石を除き、砂糖はごくごく貴重品 
   大豆、大麦を煎って石臼で挽く根気
   ごまの煎り方 すり鉢の押さえ方
   香ばしい胡麻の香りとともに祖母との語りを
   味付けサ・シ・ス・セ・ソ
   優しい気持ちでおろす大根は甘い
   古漬けの香りは発酵のしるし
味覚は記憶の積み重ね、口で噛んで食べるプロセスが大切 → 注射や胃瘻にはそれがない。



 
腸も脳も喜ぶ美味しい食事

◎腸の老化を進める生活
   ◇不規則な食事 ◇睡眠不足 ◇運動不足◇ストレスフルな毎日 ◇間食が多い
   ◇暴飲暴食は腸いじめ

◎リラックスし感動することは若々しい腸づくり
   美味しいものを食べる幸福感 → 脳が感動
   ゆっくり美味しく食べると、少量でも満足 → 腸の負担が減り、腸の老化を防ぐ

【免疫活性化と消化器のはたらき】

 病気や手術で食事が出来ない患者に、カテーテルを心臓近くの太い静脈に挿入し、このカテーテルから高栄養点滴をするIVH(中心静脈栄養)では、患者の生命の長期間の維持が出来るようになりました。しかし、このIVHを行っていると、胃腸のはたらきを休ませてしまい、免疫機能を低下させる事が分かってきました。そこで、腸に栄養剤を注入して腸を働かせる手法が取られています。

しかし、19世紀のナイチンゲールは、「3時間ごとに茶碗1杯の食物を与えるように指示を受けたが、患者の胃がそれを受けつけないような場合には、1時間毎に大さじ1杯ずつ与えて見るとよい。それもだめなら15分おきに茶さじ1杯づつ与えてみることである」と言っています。

現在の高度な医療知識がなかった19世紀に、ナイチンゲールは、すでにこのような看護を行っていたのです。患者と深く接している看護だからこそ、できる事です。

○腸の老化により、全身の臓器が壊され、様々な生活習慣病が発症する
 

腸が弱ると、便通が悪くなります。病院でも便秘が多く、病院ではすぐに浣腸をします。しかし、下剤に頼らず、便秘を改善する事が出来ます
 
 ひどい便秘で困っていた赤ちゃんも、濡れた温かいタオルを腰背部に当てていたところ、便通がでるようにりました。濡れた温かいタオルを腰背部に当てると腸が働くことが分かっています。
これも看護なのです。


【楽しく食べる意味】

サル社会では、食物を囲んで仲良く食べる光景はありません。
近年の人間社会の個食化はサル社会に向かっているのでは?    (山際 寿一)

個食は、社会関係の構築を妨げ 共感能力 連帯能力を低下させます。どの文化でも食事を社交の場として、時間と金を費やして来ました。楽しい食事は副交感神経を働かせ、消化吸収、免疫力を高めます。同じ物を食べ味わい、連帯感が生まれます。 

被災地でのお隣さんづくり、心おきない人間関係の第1歩は、食事でした。




毎日の料理は愛の表現
食べてくれる人、食べてもらいたい人に対して言葉にしなくても1皿、1椀の中に潜む小さな愛。

しかし、夫は妻が、子供は母が3度の食事を用意するのはあたり前と思い続けて来た。
日本社会全体が長年にわたって女性の務めへの感謝の念が希薄であったから、家族のために調理をする喜びよりも、義務感や大変感が先だって、食事つくりへの意欲が失せた?
 その結果、女たちは、手塩にかけて料理をしなくなり、家庭の食卓から「メリハリ」が消えたという意見もあります。

コンビニもデパ地下も調理の手間を省くけど一律化した味で、必ず飽きが来ます。不思議に家庭の味って飽きが来ないのです。私の味でわが家の食卓を大切にする思いを。

展開料理で手早く美味しく

  ☆八方出汁のつくりおきで、さっと煮物が素麺が
    夕食を食べる前に鍋に昆布と水を入れ、後片付けをしながら、火をつけて削り節を

  ☆休みの日にはポトフ-野菜丸ごと 肉の塊
    弱火でことことしながらお掃除、洗濯
    夜は豪華な皿盛り 多めにつくっておき、火を通しておけば、何時でも栄養合理的な
    美味しいスープ
    最後は冷やご飯を入れてロシア風カーシャ(粥)

  ☆ちりめんいりこのから煎り → サラダに

  ☆三杯酢もつくりおき → キュウリ わかめ オクラ
 食はいのちの営みです。

医療関係では、重病人の思いをよそに、食べる営み支援が後退しています。
  口から食べるのは大変なので、簡便な方法になってしまっている。 
     電解質の解明、輸液技術の進歩、経管栄養中心静脈栄養、簡便な胃瘻増設法により
     安易な選択。
     食事よりも点滴、そして、食事がしにくいとすぐに胃瘻を増設して、手間を省く。

  診療報酬制度の影響
     診療面の業務過多・食事よりも薬・輸液

  医療チームの専門分化・分業・業務委託

生命の再生、健康の回復、終焉のエネルギーを意識すれば、口から食べることの意味はいっそう
強まります。

【いのちのスープ(玄米スープ)】



中火でことこと煮る。お粥にしないで、上澄みをスープにする。お通じがよくなり、力がみなぎります。
体力の弱った患者さんや、終焉の方にも、いのちのスープを。

川嶋先生も書かれている本(食といのち)が出版されました。
 

川嶋先生の被災地での活動の報告です。

 生きている限り続く暮らし 、社会の進歩や意識の変化によって暮らし方も変化することでしょう。
でも人間にとって大切なことは、時代とともにそうそう変わるものではない気がします。
あたりまえ過ぎて気づかないことの中に大切なことが潜んでいるのではないでしょうか

食べる営み、腸の働き、この長く続いたありふれた営みをこれからどう考え、正しく続けるか
どうかはあなた次第。