たまごビル健康講座                       平成25年10月12日

     EBMの問題点と患者の語りからの解決方法

            TIP「正しい治療と薬の情報」編集長  
            健康と病いの語りDIPExーJapan理事長

           別府 宏圀  先生

    

 【たまごビル院長 石垣 邦彦 先生】

 別府 宏圀 先生は日本の医療の宝のような存在の方で、日本の医療の良心です。
 ご自身のライフワークである、「患者の語り」を大切にして、医療の本質にせまっていこうという
 お話をしていただきます。
 
【別府 宏圀 先生】

 長年にわたり、医薬品の安全で適正な使用のための研究と情報活動に取
 り組まれています。

 今回、日本医学ジャーナリスト協会賞、特別賞を受賞されました。

 日本医学ジャーナリスト協会賞  2013年10月22日
 
 
 
 
 
 
【大賞】
  新聞部門:毎日新聞が取り上げた降圧剤「バルサルタン」の臨床試験をめぐる疑惑事件

 「高血圧症」に使用される薬バルサルタンのデータを改ざんし、他の薬よりもすぐれているとしましたが、
 毎日新聞がデータの改ざんを解き明かした。

【特別賞】
 『TIP 正しい治療と薬の情報』 医薬品・治療研究会(別府 宏圀代表)

 1986年1月に創刊したこの雑誌は、製薬企業との金銭関係を完全に排し、購読料のみを資金に、
 最新の医薬品情報および副作用情報を提供してきました。

 日本で承認・販売されている医薬品に関して、国内外の論文をはじめ、製薬企業による承認申請
 資料、副作用情報などのデータを丹念に検討。これらのデータが意味するものを解釈し、論文に
 は記載されていない事柄や試験の設計に作為がみられる場合はそれらの点を指摘し、真のリスク
 と便益を明らかにしようという、高い専門知識を背景とした意欲的な記事が、毎号、紙面で紹介
 されています。

 臨床試験のデータや、副作用情報などを丁寧に検討し、発表する事で、日本の医療の安全性を
 高めるため、貢献されてきました。28年間きちんとした事を伝えることの功績が認められました。

  TIP 正しい治療と薬の情報 http://www.tip-online.org/ 
 
 
中川 米造 先生について (1926-1997)

 「医の倫理」「医の原点」「病と医療の社会学」などの著作を通じて、多くの人々に刺激と影響を与えました。
医の倫理を問い続け、患者の人権を守ることを説きました。
「科学技術の進歩」により、「近世」では科学技術は大いに役立ち、発展しました。しかし、「近代」になって科学の発展は、
公害や、高度な機械化など、いろいろな問題が生じてきました。そして「現代」は科学技術の進歩が、本当に良い方向に
向かっているのかという、疑問が沢山出てきました。

 医学の場合は、「命」を救うものだと考えられているため、「進歩」を肯定する人が多かった。
医師のやることは正しい、任せておけば良い。医は仁術であり、医師は間違ったことや、悪いことをするはずがない、
と考えられた。また、患者など周囲の人間が医学の考え方に疑問をさしはさむのはけしからんと言う考え方さえあった。
このため、正しく進歩を検証する事を妨害し、「救える命を救えなくする」と、批判する事さえ起りました。

 最先端の技術には、事業として成功を夢見る企業家、難病を克服したい医師、苦痛から逃れる事を希望する患者、
先端技術が全てを解決してくれると希望を持つ行政や政治家などが群がります。彼らが、膨大な資金をつぎ込んで走り出し、
利害が競合する中で、充分な検証も無いままに走り出した医療が、この先どのようになるか、危惧されます。

 現在、高度に機械化された医療現場では、医師は機械化された環境にどっぷりとつかってしまい、個々の患者に対する
医学から、ヒトの生物学、さらに生物一般の科学へと変化し、患者の個々の人間性が無視されています。
特に、最先端の高度な専門家ほど、人間を見失ってしまい、その事に気づかなくなっています。一人一人の患者さんを
本当に見ているのでしょうか。

「命」を救うと言いながら、本当に大切な「命」が守られてきたのか。たとえば、抗がん剤で延命治療をしてきたが、
本当に意味があったのか、また、無かったのか。
そういうことを考える事が必要なのです。「命」を救っているつもりが、救われていない。かえって迷惑であったり、
主体性を侵されたり、個人を無視されたと感じたりしています。

医療とは、患者のためのものであり、病気が治らなくては、苦痛が軽くならなければ、やる気が出なくては、医療ではありません。
患者さんの評価が一番大切で、そこをきちっと受け取れば必ず解決していきます。

 
患者さんの体験を、言葉を聞く事

Arthur Kleinman   (1941~)   

  病いの語り:慢性の病いをめぐる臨床人類学を著作。

学生時代、全身に大やけどを負った女児の患者の治療に立ち合いました。やけどで損傷した皮膚をはぎとることで、
新しい皮膚が生まれますが、痛みのため、うめき、泣き叫ぶ女児の前に、なすすべもなく立ちつくします。
連日、このような激痛に耐えて処置を受ける気持ちを話してもらえないかという問いに、少女は驚いた表情を示したが、
うめくのをやめて、話し始める。話す間中、うめき声は止まり、率直な言葉で語り続ける、その言葉に耳を傾けることが
治療的意味をもつことを学んだ。この体験が、その後のクラインマンの医師としての方向を決定づけた。
           (Arthur Kleinman  著“病いの語り”緒言より)

 患者は、病気になった時、医師から指示を受けても不安になり、同じ病気の患者と話し合う事で不安を解消して行きます。
医師から「たいして痛まない」と言われても、どのような痛みか分からない。しかし、同じ病気の経験者の話を聞いて、安心できる。
医師は、実際の痛みや症状について知らない場合が多い。

 
DIPEx (健康と病いの語り)

 医師自身が実際に病気になった時、患者の事を、病気の体験を全く知らなかったことに気付いて、患者の言葉を聞く事を始めました。
1996年DIPExのパイロット研究がオックスフォードで始まる。
2001年7月:DIPExのサイトが立ち上がり、高血圧と前立腺癌の「語り」がビデオクリップとして紹介された。
病気について、患者さんの語りをインターネットで伝える事で、同じ病気になった患者が参考にでき、医師も患者の状態がわかることで治療に役立てる事が出来ます。
現在、英国で最も評価の高い医療情報サイトに成長(アクセス数:150万回/月)。2008年10月:health talk onlineと改称しました。現在、約80のテーマ(モジュール)、がん、うつ病、慢性疼痛など病気単位以外に、正常の分娩・出産、若者の性、介護などのテーマも含まれています。
                http://www.healthtalkonline.org/
 
 
別府先生はインターネットで見て感激して、いつか日本でもやってみたいと思いました。
そして、日本でも始める事ができました。

                   http://www.dipex-j.org/
 

  乳がん、前立腺がんについては、それぞれ約50人の「語り」がネット上に公開されている。
認知症患者および介護者のモジュールは、7月に一部が公開され、今年末に完成予定。(2013年)
大腸癌検診、臨床試験被験者のインタビューと分析が始まり、現在進行中。
 
【健康と病いの語り】

・「同じ病気」を持つ他の患者が体験を聴くことで、治療法を主体的に選んだり、生活の智恵を学び、病気に立ち向かう勇気を得る。
・家族・友人が患者の気持ちを理解する助けになる。
・医療従事者や、これから医療に携わる学生が、医学・生物学的な知識だけでなく、文化・社会的な“病い”の意味を学び、医療の質を高める。
・医療の真のニーズをマスメディアや医療政策・行政に反映し、その進むべき方向を示唆。
・語る側にも生きる力と喜びを生み出す。

 

 
現在の問題 

     【子宮頸癌ワクチン(HPV感染予防)の問題】

(状況)

 子宮頸癌ワクチンが問題になっています。子宮頸癌になった娘と、母親である有名女優が子宮頸癌ワクチンを
勧めるコマーシャルに出演し病気の予防のためワクチンの接種を訴えました。
また、公費で接種できるようになり、若い女性に対し強くワクチン接種を勧めました。外国では、多くの人たちが
ワクチンを使って予防していると大々的に宣伝されました。

(起こったこと)

 ワクチン接種直後から、全身痙攣などの酷い副作用が発生しました。
それでも推進派の人たちはなかなか認めようとはせず、ワクチン接種を勧めました。
しかし、多くの副作用が発生し、現在は推奨しない、接種は希望者だけとなりました。

(検証)

(1)ワクチンの効果はあるのか

     

約5000人に対し、ワクチンを接種しない人群では、28人が発症した。ワクチン接種した人群では、発症が無かった。
これで、28人対0人なので、有効性は100%とされています。
 しかし、約5000人に対し28人の予防効果のため、残りの約5000人には無駄にワクチンを使っていることになります。

(2)HPVワクチンの副作用は

      

 HPVワクチンCervarixの副作用は他のワクチンに比較して非常に多い。
 しかも全身痙攣などの重篤な副作用が発生している。
 
(3)ワクチンとは

 ワクチンは、体内で免疫を作るものであり、外部の病原体に対するものです。
 しかし、自分自身に対して過剰に反応し自分を攻撃してしまう自己免疫疾患を起こす場合が
 あります。これが副作用として起こっています。

(4)本当に必要だった事は

 子宮頸癌の原因とされるヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しても90%以上の場合、2年
 以内にウイルスは自然に排出されるとされています。
 子宮頸癌は、異形成(子宮頸癌になる前の病変)が発見可能なため、定期的な子宮頸癌検診
により癌の発症を未然に防ぐことができます。
  (厚生労働省 ホームページ 子宮頸がん予防ワクチンQ&A より)

従って、大半の関係ない人たちは、ワクチンを接種する事により、重篤な副作用を発症する
危険をおかすだけだったのです。
 なぜ、このようなワクチンの定期接種を積極的に勧奨したのでしょうか。それは、他の薬が
 病気になった人だけに使われるのに対し、予防ワクチンは対象者(若い女性)全員に使われる
ため、大量に販売され、膨大な利益を得る事が出来るからです。大量に使われるため、副作用の
発生数も増大します。

子宮頸癌の検診は、イギリスなどの約80%に対し、日本では約20%です。ワクチンを積極的に
勧奨するのではなく、定期検診の普及を進めるべきなのです。

定期検診でがんを予防できます。しかも副作用はありません。
厚生労働省では、子宮頸がん検診は20歳以上の女性は、2年に1回の頻度でよいとしています。
子宮頸がんは、早期に発見されれば、治療により比較的治癒しやすいがんとされています。

 
【参考資料】

(ウィキペディア より)

 子宮頸癌の最大の特徴は、原因がはっきりしている為、予防可能な癌であるという点である。
これは異形成(子宮頸癌になる前の病変)が発見可能なためであり、定期的な子宮頸癌検診に
より、異形成の段階で発見・治療することにより癌の発症を未然に防ぐことができる。

(厚生労働省 ホームページ 子宮頸がん予防ワクチンQ&Aより)

子宮頸がんの発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれるウイルスが関わっています。
子宮頸がんは、早期に発見されれば、治療により比較的治癒しやすいがんとされています。
子宮頸がんの患者さんは、年間10,000人程度(2008年)と報告されています。
子宮頸がんで亡くなる方は、年間3,000人程度(2011年)と報告されています。
子宮頸部の細胞に異常がない女性のうち、10~20%程度の方がヒトパピローマウイルス(HPV)
 に感染していると報告されています。また、海外では性行為を行う女性の50~80%が、生涯で
 一度はHPVに感染すると報告されています。
ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しても、90%以上の場合、2年以内にウイルスは自然に
 排出されるとされています。しかし、ウイルスが自然に排出されず、数年から数十年にわたって
 持続的に感染した場合には、がんになることがあると報告されています。
20歳以上の女性は、2年に1回の頻度で子宮頸がん検診を受けることが推奨されています。